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数学の授業でキャリア教育

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7月9日に開催した勉強会「キャリア教育とアクティブラーニングの本質に迫る」の詳細を記事にしています。

ここからは第二部「キャリア教育から考える教科教育の視座」での、3人の先生方の実践発表をご紹介していきます。



1人目は、立命館宇治中学校・高等学校の教諭、酒井淳平先生です。

酒井先生には、第一部で基調講演もしていただきました。

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第二部では「数学の授業でキャリア教育」というテーマで発表をしてくださいました。



酒井先生のお話

学校の教員は、何かの教科をもって採用されます。自分は数学科で採用されています。「キャリア教育」で採用される人はいません。

ここにいる教員のみなさんも何かしらの教科を持っています。

そして仕事で一番時間を使っているのは、授業の準備や授業実践だと思います。

こう考えると、教科の授業をキャリア教育の視点をもって行うことが重要だとわかります。

今から発表させていただく実践は試行錯誤している途中のものです。考えていることをお伝えしながら、他の教科の先生の意見も聞けたらと思っています。

これからはさっきのお話で出てきた2軸のうち、生きる力の話になります。 f:id:yumekatsu:20160718095111j:plain

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みなさんがご自身の教科を通して育てたい力とは何でしょうか。

目先のことだったら、例えば大学に通すためにセンター試験平均が何割、偏差値いくつ、というのがあるかもしれません。

でもそれは通過点でしかなくて、おそらくもっと根底に、国語を通してや、数学を通してのこういう力、という考えがあると思います。

教科が実社会の中でどう役立っているのか、生きていくうえでどう役立つのか、(役立たないとしても)なぜこの教科を学ぶのかという問いにしてもいいかもしれません。

そのあたりを考えていただければと思います。

先に、自分自身の気づきから紹介します。

例えば、数学で証明の指導をします。教員としてはなぜ証明を指導するかといったら、当然、何か自分の示したいことを他の人にわかる形で伝える力をつけるためです。特に数学の先生には共感していただけると思います。

一方そのことについて生徒はどう受け止めていますか?

いざ授業をすると、生徒はこう聞きます。
「先生、これがなかったら減点ですか。」
「自分の答えは模範解答とこう違うんです。減点されますか。」

すごく悲しいですが、こちらが一生懸命指導をして、きちんと論理的に他の人に伝わるかたちで答案を書けるようになってほしいのに、生徒は“減点されなかったらいい”のです。

他にもそのようなことが多々あります。たとえばわかる楽しさを実感してほしいから丁寧に授業し、わかりやすい授業をすればするほど、わからないことがあったらすぐに諦めてしまう傾向が出てくる。

数学は間違い直しがとても大事なので、「間違い直しをちゃんとして出しなさい」と言っているのに、生徒は答えを写して終わり。

なぜそうなるのかが数学の醍醐味だから定理の証明を教えるのですが、生徒にとってはそんなのはどうでもよくて、ただ公式を覚えて当てはめるだけ。

自分が思っていることと生徒の受け止め方にすごくギャップがあることに気づきました。

そこで原点に戻った時、自分はこんなことを考えました。

まず“数学だからこそつけることのできる力”という点です。

そもそも数学とはすごくいい学問だと思いませんか?

なぜなら、数学をやるからこそ抽象的なことが理解できます。数学は難しいと言われるので、そのおかげで人に教えると伝える力がつきます。やはり抽象的なことを人に伝える力は大切だと思います。

また、課題に対してチームで取り組む力がつきます。

数学は、必ず人生のどこかで落ちこぼれます。数学の先生の中にも大学数学でわけがわからなくなってしまった人はたくさんいます。

落ちこぼれたときにどうするか。例えば大学なら、チームを組んで一生懸命頑張ります。そうやってみんな乗り越えてきています。数学だからこそ、チーム力がつきます。

そして、さっきサモアの話をしました。英語はたいしてできない自分がサモアに行って、ホストシスターと何で会話したと思いますか。

当時大学生だったホストシスターは、連立方程式や一次関数がわからないといって私のところに持ってきました。英語はわからなくても、それには答えることができます。

これが国語や社会だったら、たぶん無理でしょう。

そもそも外国に行ったら、国語や社会だと教科書に何が書いてあるかわかりません。ところが数学はわかります。このことから数学は一番グローバルな言語だといえます。

さらに、わからないことに挑戦する力は数学でこそつくと考えています。

次にこれらが“社会においてはどう役立つか”という点です。

社会の中でマニュアル等を自分で読める力は大事です。人に伝える力も大事ですし、仕事はチームで動きます。そしてこれからはグローバルな社会になっていきます。

これらはまさに数学を通してつけることのできる力なので、数学を通してつく力は、社会でも必要です。

「数学を通して、数学だからこそできる、生きるうえで大切な力を育てる授業をしたい」と考えて、いま試行錯誤しているところです。

いま行っている授業が、もしかしたら教科でのキャリア教育かもしれないし、結果としてはアクティブラーニング型というところに分類されるのかもしれません。

なぜ“結果として”なのかというと、自分の中で考え方が昔と大きく変わったわけではないからです。

キャリア教育と出会う前から同じようなことを考えていたはずで、決して数学の問題が解ければそれでいいと思っていたわけではありません。

ただ、生徒が学んでいる状況が、テストの点数をとるだけ、わかりやすく教えてもらう、言われたことをやる、というふうになっていると思ったので、方法を少し変えて生徒と目的を共有するようにしたというだけのことです。それが結果的にアクティブラーニング型になっているのだろうと思っています。

高1でCSLの授業をして高2で数学Bを教えた生徒が「先生の数学の授業、CSLみたいでした」と言ってくれたときは、数学を通して少しでもキャリア教育ができていたのかなと思って嬉しかったです。

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みなさんはどうですか?

みなさんと生徒の間に、教科の受け止め方のギャップがあるとしたらそれは何でしょうか。そしてご自身の教科だからこそできることは何でしょう。社会ではその教科の力がどんなふうに役立つでしょうか。

1分だけ時間をとりますので書いてみてください。

また、これらを踏まえて、授業で変えるところがあるとしたらそれはどこでしょうか。

私は、2014年の夏に授業スタイルを変える最終決断をしました。

産業能率大学のフォーラムで出会った関西大倉高校の郷地先生が、まさにアクティブラーニング型といわれる授業をしていました。郷地先生とお話しし、資料もいただき、自分のスタイルを少し変えて、自分の伸ばしたい力を伸ばせる授業に挑戦しようということを決めました。

授業進度を遅らせるわけにはいかないと考えたときに、こちらがだらだらと説明をして、生徒が何も考えずにノートに写している時間が無駄だと思いました。だからその時間を減らして、その分を演習の時間にあてれば、進度は遅れないし、生徒ももっと学ぶだろうと思いました。

授業の基本形として、まず初めに目標を確認して説明・解説、そして例題の解決をします。昔はここで全部わかってほしいと思って丁寧にやっていましたが、この説明を少し省き気味にします。

プリントに書いてあるから自分で読みなさいと言って、読んでわかった生徒は自分する、わからない生徒にはもう一度説明をするという形にすることが多いです。

その後個人で問題解決をして、グループで解いて振り返りをして、個人で確認テストをする。

このような流れで授業を進める時が多いです。

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少し授業体験をしてもらいます。 f:id:yumekatsu:20160718095139j:plain

この問題を、まずは個人で解き、次にグループで相談してみてください。

どうでしょう、少しでもグループでするメリットデメリットを感じてもらえたでしょうか。また、一人でするときと比較してメリットばかりではないと思いますが、どんな力が伸びそうだと思いましたか。

このあたりを振り返っていただけたらと思います。

では、答えを言います。

これは心理学で有名な問題です。

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このように聞くと間違える人はほとんどいないのではないでしょうか?

このような4人がいたとして、「アルコールを飲む人は20歳以上である」ことを確認するためにはどの人に尋ねますか?これも2人にしか尋ねられないとして。

まずは当然、ビールを飲む人に確認しますよね。

そうすると次は、17歳の人に尋ねませんか?

数学で「命題とその対偶は真偽が一致する」というのがあります。4枚カード問題はこれを使えば解けます。

片面が母音ならばその裏は偶数であることを確認したいので、当然、まずは母音が書かれているカードをひっくり返しますよね。つまりAです。

次にこの命題の対偶「カードの裏が奇数ならば片面は子音である」ということの真偽を確認すればいいわけです。つまり奇数の7です。

というわけでめくるカードはAと7となります。

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昨年度の実践結果を紹介します。

文系クラスを担当していたのですが、生徒たちは文系であっても、数学を一生懸命集中してやってくれました。特に上位層ほど答えが読めたり答案を書けたりするようになりました。

そして生徒のアンケート結果はこのようになりました。

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実は私が授業スタイルを変えるとき、嫌だったらこの方式はやめる、成績が伸びなくてもやめる、そのときは一斉授業をやると言っていました。そう言って始めましたが、生徒が続けてほしいと言ったので結局続けました。

アンケートの結果から生徒なりに、多少の効果を感じてくれていることがわかりました。

今後の課題もたくさんあります。

グループだからこその教材開発、役割が固定してしまわない工夫、私のファシリテーション力、生徒にもっと負荷をかける工夫…。本当にたくさんありますが、とにかく自分の目標に近づけるように現在取り組んでいるところです。

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最後にこれだけお伝えします。

教科でキャリア教育をするときに、2つのアプローチがあるのではないかと思っています。

一つ目は教材を工夫するということ。教材を工夫してキャリア教育の視点を入れるということです。

もう一つは授業方法です。学び方そのものにキャリア教育の視点を入れるということです。

この後の議論で、他の教科についても議論が深まったらいいなと思います。

そして、数学でも結局これは変わりません。

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教えてもらう、与えてもらうだけではなくて、いかに自分で理解していくか。いかにこちらのサポートを減らしながら生徒が理解する力を高めるか。このようにしたいと思い、授業に取り組んでいるところです。