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キャリア発達とは、結局なんだ?~基礎的・汎用的能力から考える~

平成23年1月31日の中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」によると、社会の中で自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現していく過程が「キャリア発達」です。

またこの中で、社会的・職業的自立、学校から社会・職業への円滑な移行に必要な力に含まれる要素の1つとして「基礎的・汎用的能力」が挙げられました。

これは4つの能力で構成されており、分野や職種にかかわらず、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力であると書かれています。

この能力をつけていくことが「キャリア発達」であるという考えなのではないかと思います。

そこで、海外の理論や日本キャリア教育学会員である宮原清氏の研究を用いて、この4能力を解釈し、何を発達させればこの能力がつくのかということを考えました。


基礎的・汎用的能力

まず基礎的・汎用的能力について、答申から引用します。

【人間関係形成・社会形成能力】
 「人間関係形成・社会形成能力」は、多様な他者の考えや立場を理解し、相手の意見を聴いて自分の考えを正確に伝えることができるとともに、自分の置かれている状況を受け止め、役割を果たしつつ他者と協力・協働して社会に参画し、今後の社会を積極的に形成することができる力である。
 この能力は、社会とのかかわりの中で生活し仕事をしていく上で、基礎となる能力である。特に、価値の多様化が進む現代社会においては、性別、年齢、個性、価値観等の多様な人材が活躍しており、様々な他者を認めつつ協働していく力が必要である。また、変化の激しい今日においては、既存の社会に参画し、適応しつつ、必要であれば自ら新たな社会を創造・構築していくことが必要である。さらに、人や社会とのかかわりは、自分に必要な知識や技能、能力、態度を気付かせてくれるものでもあり、自らを育成するうえでも影響を与えるものである。具体的な要素としては、例えば、他者の個性を理解する力、他者に働きかける力、コミュニケーション・スキル、チームワーク、リーダーシップ等が挙げられる。

【自己理解・自己管理能力】
 「自己理解・自己管理能力」は、自分が「できること」「意義を感じること」「したいこと」について、社会との相互関係を保ちつつ、今後の自分自身の可能性を含めた肯定的な理解に基づき主体的に行動すると同時に、自らの思考や感情を律し、かつ、今後の成長のために進んで学ぼうとする力である。
 この能力は、子どもや若者の自身や自己肯定感の低さが指摘されるなか、「やればできる」と考えて行動できる力である。また、変化の激しい社会にあって多様な他者との協力や協働が求められている中では、自らの思考や感情を律する力や自らを研鑽する力がますます重要である。これらは、キャリア形成や人間関係形成における基盤となるものであり、とりわけ自己理解能力は、生涯にわたり多様なキャリアを形成する過程で常に深めていく必要がある。具体的な要素としては、例えば、自己の役割の理解、前向きに考える力、自己の動機付け、忍耐力、ストレスマネジメント、主体的行動等が挙げられる。

【課題対応能力】
 「課題対応能力」は、仕事をする上での様々な課題を発見・分析し、適切な計画を立ててその課題を処理し、解決することができる力である。
 この能力は、自らが行うべきことに意欲的に取り組む上で必要なものである。また、知識基盤社会の到来やグローバル化等を踏まえ、従来の考え方や方法にとらわれずに物事を前に進めていくために必要な力である。さらに、社会の情報化に伴い、情報及び情報手段を主体的に選択し活用する力を身に付けることも重要である。具体的な要素としては、情報の理解・選択・処理等、本質の理解、原因の追究、課題発見、計画立案、実行力、評価・改善等が挙げられる。

【キャリアプランニング能力】
 「キャリアプランニング能力」は、「働くこと」の意義を理解し、自らが果たすべき様々な立場や役割との関連を踏まえて「働くこと」を位置付け、多様な生き方に関する様々な情報を適切に取捨選択・活用しながら、自ら主体的に判断してキャリアを形成していく力である。
 この能力は、社会人・職業人として生活していくために生涯にわたって必要となる能力である。具体的な要素としては、例えば、学ぶこと・働くことの意義や役割の理解、多様性の理解、将来設計、選択、行動と改善等が挙げられる。


各能力の考察

この4つの能力それぞれについて、考察をします。

これから順次、記事を更新していきながら、現段階で考えたことを書いていきます。

人間関係形成・社会形成能力について

これは、宮原清氏の研究によって示されている「コミュニケーション効力感」「社会形成意識」に含まれる因子を発達させることによってつく能力だと考えます。

コミュニケーション効力感に含まれるのは、多くの人と付き合うことや人付き合いに対して抵抗がないという「親和性」、対人関係を積極的に深められると感じる「積極性」、印象の悪い相手とも関係をつくれそうに感じる「高社交性」の三つです。

また社会形成意識に含まれるのは、他者のために何かをすることに喜びを感じる「貢献性」、ものごとを最後あきらめずやり遂げることに喜びを感じる「責任感」、消費者でない生産者の視点や主体的な課題解決意欲を持っている「生産的意識」の三つです。

この研究についてはこちらの記事にも書いています。↓

アクティブラーニングが発達を変える、教育を変える ―キャリア教育の視点から見た AL 型授業の効果 - FORESIGHT.COM

そして社会形成能力が育つための土台として必要なものとして「当事者意識」があるのではないかと考えました。

社会に関心を持ち、社会に対して当事者意識をもつことが、社会形成の第一歩であると思います。

自己理解・自己管理能力について

自己理解については、エリクソンの示したアイデンティティの考え方が関係すると考えます。

エリクソンは人の一生を8つの段階に分け、それぞれの発達段階において課題となることを示しています。

Ⅰ期:基本的信頼 対 基本的不信
Ⅱ期:自律 対 恥と疑惑
Ⅲ期:自主性 対 罪の意識
Ⅳ期:勤勉 対 劣等感
Ⅴ期:アイデンティティ 対 アイデンティティ拡散
Ⅵ期:親密と孤独 対 自己陶酔
Ⅶ期:ジェネラティヴィティ 対 停滞
Ⅷ期:インテグリティ 対 絶望と嫌悪 

青年期には「アイデンティティ」が課題になっています。

エリクソンは「自分が自分である」という感覚が空間的・時間的に成り立っているだけでなく、それが他者からも認められているという自覚がアイデンティティの側面だと言っています。

自己理解の力をつけていくためには、自分は何をしたいのか、自分には何ができるのかといった自分の考えを「言語化する」ことが有効だと考えます。

課題対応能力について

課題対応能力は、クランボルツの言うキャリア意思決定に影響を及ぼす4つの要素のうちの一つ、「課題接近スキル」に共通すると考えました。

関西学院大学リポジトリ: キャリア理論における能力形成の関連性 : 能力形成とキャリア理論との統合に向けての一考察(下)によると、

クランボルツは「職業的意思決定において、先行要因が学習に対して影響を与え、それによって信念や技能が獲得されたり、行動に結びつく」と主張しています。そしてそのキャリア意思決定に対する影響要因は

・遺伝的才能・特殊能力
・環境的条件とイベント
・学習経験
・課題接近スキル

の4つです。

1つ目の「遺伝的才能」というのは性別、民族、身体的外見・特徴などのことで、「特殊能力」は知性、音楽・芸術的才能、運動能力などのことです。

2つ目の「環境的条件とイベント」というのは本人がコントロールできない部分で、雇用機会の数と内容、自然災害、隣人やコミュニティの影響などが挙げられています。

3つ目の「学習経験」は先行要因であると同時にキャリア選択行動そのものも意味するそうです。その行動によってまた学習し、次の選択行動に影響に与えていくという流れです。

そして4つ目の「課題接近スキル」です。これも先行要因でもあり学習の結果生み出されるものでもあると言われています。これはキャリアの意思決定プロセスの中で、学習が繰り返し行われるということを意味しています。

課題接近スキルの中でも特に重要なのは

・重要な決定状況を認識すること
・課題を現実的に定義すること
・自己観察般化と世界観般化を検証し正確に査定すること
・幅広い選択肢を生み出すこと
・選択肢についての必要な情報を集めること
・徐々に魅力的ではない選択肢を除去すること

この6つであると書かれています。

これを見ると、確かにこれは「意思決定」の際に必要な要素、有効な視点だと感じます。

キャリアプランニング能力について

キャリアプランニング能力にも、先ほどご紹介したクランボルツの考えが関係すると考えました。

クランボルツの考えから、意思決定は学習・行動の繰り返しの中でなされるということが読み取れます。

また答申にも「様々な情報を適切に取捨選択・活用しながら、自ら主体的に判断してキャリアを形成していく力」とあります。

弊社では生徒に職業観・学習観・志を言葉にしてもらうことをプログラムの大きな目的としていますが、それはこの能力を育てるために効果的だと感じています。

今の時点での自分の考えを言葉にする。これを繰り返すことが大事だと思います。