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北九州市立大学の眞鍋和博先生へインタビュー

北九州市立大学には、地域創生学群という非常に特色のある学群があります。ここでは、学生は3年間を通じて学外で地域課題の解決に向けた実習をおこなっています。

キャリア教育の先進事例として地域創生学群の取り組みを知るため、その学群長である眞鍋和博先生にインタビューしてきました。先生の考えるキャリア教育とはどのようなものでしょうか。


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――眞鍋先生の考える「キャリア教育」を教えてください。

大学の教員になってすぐは、キャリア教育は(企業)社会で役に立つ能力や技術を獲得させる教育だと考えていました。社会人になった時に自立してきちんと仕事をできるようになり、「使える人材」になるための能力とスキルを身につける教育。

今はそこから少し変わってきていて、この社会を形成していく、創り出していくための能力やスキル、考え方を持たせることだと考えています。


社会問題は、解決云々の前にまず多くの人は気づくことができない。また、教科書やニュースに出てくる「情報」として認識していても、それを「解決すべき自分たちの課題」と認識している人は非常に少ない。

それは、学校という大きな社会システムの弊害だと思っています。学校と社会との間に大きな隔たりがあるのではないでしょうか。社会を形成していく人間としての学びと、学校教育の中での学びはかなりずれていると感じています。そうするとこの世の中で起こっていることに関心が向かなくなります。

例えば地球温暖化。地球温暖化は温室効果ガスの排出が増えていることで起こっている。それは学校で習って理解します。でも「それが自分たちの生活にどう影響を与えているか」「自分がどうすればそれを防げるのか」というところまでは、なかなか考えが行かない。学校では「覚えればいいもの」になってしまう。これが学校教育の弊害と言えると思います。

まず社会の問題に気づくということがとても大事。しかもそれが「覚えるべきこと」ではなくて「自分たちの生活に密接に関係していることが、すでに今ここで問題として起こっている」と気づくことが重要です。


気づいたら、今度はそれがどうなっているのかということを学び深め、洞察してほしい。これが第二段階目です。

社会の問題というのは一つの直線上にできているものではなくて、様々な要素が複雑に絡み合ってできています。答えは簡単には出せないかもしれないけど、その問題に真摯に向き合ってほしい。

問題を単純化して理解することも大事ですが、それで全てではありません。温暖化の問題を考えるにも、別の国にいる人たちの暮らしも考えなければいけないわけです。


そんなふうに考えたら、今度は解決に向けて行動してほしい。誰かが解決してくれるのではなく、「自分が」解決するんです。

社会問題を自分事にしてほしいというより、そもそも自分事なんですよ。

例えば、アフリカの少年兵が領土の奪い合いで殺し合いをしています。それは世界の果てで起こっていて自分には関係のないことに思えるかもしれませんが、それには自分たちの生活も絡んでいます。争いの原因はレアメタルの採掘権。私たちはその資源を輸入して使っている。つながっているでしょう。

そこに気づいて勉強して、一人がやれることは小さいけど、何か一つ自分にできることをやってほしいなと思います。何もしなければ何も変わりません。


それから私は、教育現場でキャリア教育が特別なものだととらえられることを危惧しています。アクティブラーニングと同じで、手法にこだわってしまうところがある。それは違うだろうと批判的にとらえています。


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――地域創生学群はどのような考えをもったところなのですか?

この学群の特徴は、理論学習と実践の逆転です。一般的な大学教育では、まず理論を学び、それを活かすために実践があります。フィールドワークをして学んだ理論を試していくような。

学群は全くの逆で、理論にこだわらず、まずは経験をします。とりあえず地域に出てみる。すると、いろんなことがわかります。「自分は何もわかっていない」ということや、何かを行う上で必要チームビルディング、プロジェクトマネジメント、リスク管理などの技術的なこと。もちろん、知識や理論、社会人としてのふるまいなど。そのいろんな気づきを得たうえで、自分はこれを学ばなきゃいけないと考え、学びにつなげます。


学群の学生は、入学して数日後には地域に出ます。現実社会で起こっているいろんな生の状況や問題を体にしみこませて、その状態のまま学内で学ぶというわけです。


この地域実習には商店街の活性化や、学習支援などさまざまな種類のプロジェクトがあります。現在15プロジェクトほどが活動しています。このほとんどは地域創生学群の開設当初から続いているので、8年間ですね。

学生は、1年生から3年生が終わるまでずっと所属したプロジェクトを進めていきます。どんな活動をするかは概ね枠組みとして決まっていて、先輩から後輩へと引き継がれていきます。新しくやってみたいことは、学生が自分たちでその大きな枠組みの中でプロジェクトを起こしてやっています。

1つの大きなプロジェクトに20~30人くらい所属しているので、その中でもチームをつくっていろいろな取り組みをしているわけです。例えば小倉活性化プロジェクトは小倉に来られた観光客の方などへのおもてなしを行う「まちなかコンシェルジュ」をベースに、清掃活動をしたり、フェイスブックページで小倉の飲食店を紹介したり小倉で活躍している人物を紹介したり、ラジオ番組をしたり。

そして、1つだけでなくいくつかのチームを掛け持ちしています。それも、こっちのチームではリーダーで、こっちではそうでないというふうに立場を変えて。同時にいくつかをこなすマルチタスクが学生の成長を促進します。


学生はだいたい平均で月に120時間、この活動に費やしています。多いチームの繁忙期はこれ以上になることもあります。手前みそですが、すごいなと思います。もう仕事と同じですね。


学生たちは自分たちで主体的に動いていて、教員と接点があるのは基本的に週に一回くらいしかありません。教員が教えるのではなくて学生たちが直接地域の人たちとやりあっているわけです。地域の人に受け入れていただいて、地域の人と学生とで動かしているんです。

私たちは定期的に進捗を聞いて、多少アドバイスをしたり、モチベーションが下がらないように、学生たちが自分たちでハードルを下げてしまわないように働きかけをしたり。チームが円滑に進むように、主体的になってもらえるように仕掛けていくのが私たちの役割です。


担当する教員によってプロジェクトチームの色が出ますが、私は、本人たちがどうしたいかということを徹底的に聞くスタンスで接しています。こういう企画をやりたいと言われたときに、「どうしてそれをやりたいのか」「それをすることで誰にどんな効果があるのか」「その目標はこういうやり方で達成することができるのか」と、厳しい突っ込みもします。



――他に、教育でこだわっていることは何ですか?

自分が持っていない、相手の考えを尊重することです。
大学の先生って、基本的に理論や正解に近い考えを持っている。でもそれをできるだけ言わないようにしています。学生が自分たちでやりたいと言ったことは実践させて、場合によっては失敗をさせます。

学生にはよく「3塁手でもセカンドゴロを取りにいきなさい」と言います。「自分の持ち場はここだけ」と固執せずに何でも食いついていけ、失敗するかもしれないけど、そこに新しい世界や成長の種があるんだということを言っています。積極的にまちに出て行って、積極的に人に会って、積極的にいろんなことにトライしてほしいと思っています。


あとは楽しむこと。誰かから言われたからやるのではなく、自分たちが自分たちのために楽しくやるという雰囲気をつくる。

今は学群長の立場なので、そういう雰囲気をつくっていくことをものすごく意識しています。制度をつくることもあるし、普段からの学生への声掛けや先生方への話で、チャレンジを奨励する働きかけをしています。



――ここにはどんな先生がいらっしゃるのですか?

「地域創生学」というものがあるわけではないから、それぞれいろんな専門をもっています。

例えば学校に行って子どもたちを支援しているチームがありますが、教育学の先生が担当しているわけではありません。子どもたちに何が起こっているのか、何に困っているのかを現場で見て、地域全体の教育力を考えるわけです。

ある学問の理論、知識をもって「この地域は良い、悪い」「こういうふうにすればいい」と評価や指示をするのではなくて、私たちはまず地域に飛び込みます。そこで地域の人たちといろいろ議論しながら起こっている問題やするべきことに取り組んでいきます。



――学内での講義はあるのですか?

もちろん、学生たちは講義も受けなければなりません。一般的な大学なので、卒業までに124単位取らなければいけません。学群は専門科目に特徴があって、他学部の先生の講義も幅広く受講することができます。経済系もあれば法律系もある。心理学もあればスポーツ系もある。学びたくなった科目を学べるという仕組みになっています。


実習は半期1単位です。さらに実習を振り返るための実践論という科目が2単位なので、実習に関わるのは半期で3単位です。かけている時間からすると単位数はかなり少ないと考えています。

でもこれが重要なところで、「単位がこれだけだからこの時間までしか活動をしません」というのは間違っていると思います。大学の単位制度を中心に考えるとそれでいいかもしれない。

でも、学群は違います。地域の日常を体験することを重視しているので、どのくらい活動に時間をかけるのかは、活動、地域側に主導権があるとも言えます。つまり、学生はもはやその地域の住人なんです。そういう関係性を地域の人とつくるので、どうしても時間がかかるんです。土日もないし、基本的に長期休暇もない。ここが他の大学と考え方が違うところですね。

でも学生は主体的に取組んでくれています。やらないといけないという使命感が学生の中にあるんだと思います。教員がサポート役に徹するので、自分たちで「地域のためにやろう」という意識を持ってくれているのだと思います。



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――どんな学生が育っているという実感をお持ちですか?

一つは明るい学生が多いですね。コミュニケーションに長けている学生が多い。大人と話すことに対してさほど抵抗がありません。話していて、学生と話している感じがしないときもあります。お互いに仕事のパートナー、部下のような感覚です。

1年生のときからこれだけ時間をかけて地域に関わって、様々な人に会って、うまくいくこともあればうまくいかないこともたくさんあります。日常的に社会人として生活しているわけです。だからこそ、そういうふうになっていくのかなと思います。



――そうは言っても、ここに来る学生はやはり最初から能力が高いのでしょうか。

それは鋭い質問で、私たちが今一番こだわっているのは高大連携と入試です。

このような特殊な学部なので、納得して入学してもらわないと、入学後にミスマッチを起こすこともありえます。しかし、学生同士でモチベーション管理や適材適所などのマネジメントをうまくやってくれているので、最終的に退学にまで至る学生は年に1人いるかいないかくらいではないでしょうか。

主体的になれないとか、言われたらやるけどそれ以上はやりたくないという学生も僅かなら存在します。そういう学生をどのようにマネジメントしていくのかというのがリーダーの仕事にもなるので、リーダーにとっては学びの要素になります。しかし、マネジメントされる側の学生にとっては、学群教育にコミットできずに学生生活を送ることになるので、少し不幸な部分もあるかもしれません。だからできるだけ高大連携にこだわって、学群教育に対して納得して入学してもらうことを意識しています。


しかし、そうは言っても高校生が見る大学の姿と実際に入ってから見える大学の姿は、やはりずれがあります。「やりたい!」と思って入っても、入ってみたら「こんなに大変だったの!?」「こんなに地道なことまでしないといけないの!?」とギャップを感じる学生も出てきます。だから、できるだけ高大連携の機会を設けて現実を見てもらって、実はものすごく大変な苦労があるのだということをわかってもらったうえで入学してほしいのです。

オープンキャンパスでもそのような側面を見せるようにしていますし、最近では高校生が自ら見学に来たり、学生たちの活動に参加したりしています。そのような高校生たちは、地域創生学群の学生をつかまえて話をしてもらっているようです。どうしても入学したい生徒はそうやって自分たちで機会を作って来ています。高校1年生でもです。


入試も毎年力を入れています。1対1の面接にとどまらず、グループの中でどのような力を発揮してくれるのか等、その受験生が本学に適しているのかを様々な角度から見極めていきます。

今年から推薦入試を始めたのですが、これまでに受験してこなかった層の高校生が受験しに来てくれました。「地方創生推薦」という推薦入試を設定したのですが、評定平均Aランク以上で、地域の問題を解決するプランを持っていて実際に解決に向けて活動する能力を備えている、というのが条件です。8人の枠に26人、様々な地域から受験しに来てくれました。相当レベルが高かったです。



――そのレベルの学生が入学したら、枠組みを超えてしまうんではないですか?

そうなんですよ。だからどうしようかと悩んでいます。いきなり一人でプロジェクトができるんじゃないかって。

だから英才教育的なコースを設けないといけないかな、というアイデアもあります。


しかし、そうは言っても、高校生ができることと社会人として活動することにはレベルの違いがあります。高校生だからと社会が甘く評価しているところもあると思うんです。「高校生なのにすごいね」と言われて、自分はできているという感覚を持っている学生も実際はいます。しかし、社会人としてやってみると、大変なことがもっとたくさんあります。そのような点は、一から地道に経験しながら学んでもらわないといけないと思います。


あと、もう1つ「活動実績推薦」というのを実施して、7名の枠に40名を超える受験者がありました。これは全国レベルの活動実績を持っているというのが条件なんです。

といっても実績さえあれば良いというわけではなくて、自分が培ってきたものを今度はどう社会に還元していくのかという考え、ビジョンをきちんと持っていることが重要なのです。


高校生の中にも、社会に目を向け活動をしている生徒がいます。そういう学生を受け入れるための社会のフィールドが少ないんです。だからほとんどの学生が枠組みを越えて活動をします。

でも本学に来てこそできることもあると考えています。特に北九州は様々な社会課題が顕在化しているので、そういった北九州の課題を教材として使ってもらって、そこで勉強してもらう意味はすごくある。

だから、推薦入試は「北九州市立大学に入学する」というよりは「北九州に来る」ことの意味を特に意識して構築した部分もあります。


――しかしそこで北九州市立大学を見つけて受験しに来るというアンテナが素晴らしいですね。


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――その一方でアンテナを立てられない、自分から入っていけない人たちにはどんなアプローチをしていったらいいんでしょうか?

チームの力や校風が大きな影響力を持つことがあると思います。おとなしい学生でも、周囲の学生のモチベーションが高く、社会のために何かをするという意志をもっている人がそろっている場にいると、自然とそのような感覚になってくるのではないでしょうか。現にそのような学生を本学でも見ることができます。



――突き抜けた人を育てれば、自然と引き上げられていくという考えですね。

育てるという意識を持つ前に、きちんとチームの中に入れる。本学で言うと大きく「地域創生学群生」として実習に真摯に取り組むなど、きちんと機能するような状態にしておけば、周りも自然とそうなっていきます。


場がつくりだす役割、効果は大きいです。

例えば学群の学生は、誰かの誕生日のときにサプライズするのが好きなんです。人を喜ばせたいという思いが強い。そういう人が周りに多く、自分がサプライズでお祝いされたら、今度は自分がやってみようという気持ちになりますよね。そうやって人を喜ばせることの楽しさや、苦労して達成することの楽しさを自然と身につけていっているように思います。


また、今の4年生に1人、私は高校生のときから彼女を知っていたのですが、彼女は入学したときは学群には珍しいくらいおとなしかったのです。しかし4年間で劇的に変わりました。

3年次に「チャレンジプログラム」というのが設定されていて、それは自分1人で立ち上がってプロジェクトを一から起こす取り組みなのですが、それに立候補するくらい変わりました。高校生のときの彼女からは考えられません。

やはり周りからの影響はすごく大きいんですね。彼女がいたチームは積極的な学生が多くて、感化されたのではないでしょうか。もともと持っていた素質だとは思いますが、それがいい具合に開花しました。


だから環境づくりはとても大事です。一般的に大学ではあまりそういうことが話題に上ることは少ないように思いますが、私は相当意識しています。



――先ほど少し出てきた「チャレンジプログラム」について詳しく教えてください。

チャレンジプログラムは、本当は3年生まで続くプログラムを2年で引退して、3年次に個人で取り組む活動です。チャレンジプログラムには2つのコースがあります。「起業トライアル」というのが、自分で事業を計画し1年間実施するものです。


今年は2人が挑戦していて、一人は小倉駅の近くでカフェを経営しています。5月くらいからスタートして12月いっぱいまでする予定です。結構いい具合です。


昨年の起業トライアルは、合コンビジネスやシェアハウスの運営、LGBT啓発イベントの開催等がありました。シェアハウスはうまくいかなかったんですが、本人は今そのうまく行かなかったことを卒業論文にしています。

LGBTの学生は自ら実行委員会を立ち上げて、市民や行政を巻き込みながら、最終的に300~400人集まるイベントをしました。資金はクラウドファンディングと協賛、補助金申請とで集めていました。


他のプロジェクトも全部、お金は基本的に自分たちで稼ぎます。例えばフリーマーケットを開いたり自分たちのプロジェクトでつくった野菜を売ったりして稼いでいます。

単なるボランティアではなくソーシャルビジネスの視点をもって、自分たちで経営できるようにもなってほしいと考えています。


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――ここまでお話を聞いてきて、指導者の力量が大きく影響するような気がするのですが、研修などあるのですか?

指導者の力量は、重要度でいくと3番目でしょうね。

1番は地域の教育力。地域の人や地域の組織、地域自体が元来持っている学生たちに良質な学びを提供し成長させる力というのがあると思います。それをいかに引き出せるかです。ある意味それは指導者の力量かもしれませんが。

だから地域の方に「こういうふうに受け入れてください」「こういうふうに指導してください」というお話は丁寧にしないといけないし、プロジェクトについても地域の人と「これはちょっと楽すぎますよね」「もうちょっと厳しくやってもらっていいですよ」というお話をします。


2番目に大事なのが先ほども出てきた場づくり。そして3番目が指導者の力量です。研修はあまりしていませんが、教員間でコミュニケーションはできるだけとるようにしています。2週間に1回は教授会を開いて会うようにしています。


また、ゼミと実習を違うものにすることによって、1人の学生を2,3人の先生が見るようにする仕組みを取り入れています。1人に固定しないので、教育が1人の先生の力量に依存しないわけです。このような実践があまり得意でない先生もいますから、できるだけみんなで支え合っています。



――今後の展望はいかがですか?

平成31年の全学でのカリキュラム改編に向けていろいろ検討していますが、大きく枠組みを変えることはないと思います。


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まだまだいくらでも面白いことが出てきそうでしたが、ここで眞鍋先生へのインタビューを終えました。

お話を聞いている間中、実習の現場や学生さんの様子を想像するだけで、その活気やエネルギーに圧倒されました。今度は地域創生学群の学生さんにもインタビューをさせていただきたいなあと思いました。


お忙しい中たくさんお話を聞かせてくださった眞鍋先生、ありがとうございました。