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高等学校のキャリア教育で目指すべきこととは

高等学校のキャリア教育で目指すべきこととは

これまで多くの有識者の方々と「キャリア教育」について対話をしてきましたが、結局、高等学校のキャリア教育で目指すべきことは、「学業と社会との接続と形成」ではないかと思いました。 また、キャリア教育の目的は、広義には、どんな社会でも生徒がたくましく生き抜けるよう、生涯にわたって、自ら学び続ける学習態度、スキルを身につけさせることだと考えます。狭義には、現代の社会課題・世界課題を解決する人材を発掘することであると考えています。 (まだまだ不勉強で、浅はかな考えかもしれませんが、このテーマを追求して15年という節目を迎えたので、一度整理しておきます)

社会とは、第3段階教育機関、職業、人生、生活、社会課題等です。 これらと自然に接続出来る環境、接続や形成に必要なマインド、スキルを身につけることが、高校生へのキャリア教育で必要なことであると多くの有識者の方々との対話で気付きました。

ではいったい、何をどう発達、成長させるのか、気付かせるのかが大切だと思います。

それはきっと、「変わらないもの(全生徒共通する基礎となるもの)」と、「目指す社会や、これからの社会変化によって変わるもの」に分けられると思います。

“何をどう発達、成長させるか” 少しずつこの記事を更新しながら、僕たち仲間の考えをご紹介していきたいと思います。

何を発達、成長させるか

1-1.全生徒共通する基礎となるもの、変わらないもの

文科省が“基礎的汎用的能力”、経産省が“社会人基礎力”、厚労省が“就職基礎能力”を発表しており、これらが正解の一つであるとは思っています。 だけど、正直まだ分からないです。 本当にそれでいいのか。だとしたらどんな優先順位で身につけさせるべきか。それぞれ言っていることが何故違うのか、根底ではつながっているのか。繋がっていて当然じゃないのか。 これを明確にするには、多くの方々との対話の時間が必要だと実感していて、時間をかけて明らかにします。

全生徒に共通する基礎となるものの正解の一つとして、「キャリア発達」「道徳教育」「授業を筆頭に学校生活の中で身につくもの」の中にあるのではないかというのが今の僕の仮説です。

【キャリア発達について】

キャリア発達については、奥が深すぎて、まだまだ僕なんかでは語れません。現在は海外の文献から学んでいます。随時以下のURLを更新しますので、興味がある方はご覧下さい。

foresight.hatenablog.com

(筑波大学 名誉教授 渡辺 三枝子先生は、キャリア発達の前の根底となる理論があるとおっしゃっています)

ちなみに、キャリア発達を正しく、詳しくお知りになられたい方は、以下の書籍を読まれることをお勧めします。

渡辺三枝子先生の「キャリアの心理学」 http://www.nakanishiya.co.jp/book/b134499.html

www.nakanishiya.co.jp

同じく渡辺三枝子先生の「カウンセリング心理学」

http://www.nakanishiya.co.jp/book/b134116.html

www.nakanishiya.co.jp

追手門学院大学三川 俊樹先生の

books.google.co.jp

京都大学溝上 慎一先生の「自己形成の心理学」

www.sekaishisosha.co.jp

神戸大学金井 壽宏先生の「働く人のためのキャリア・デザイン」

www.php.co.jp

【道徳教育について】

道徳については、私の幼馴染の深町悠が以下のURLにまとめてくれています。

foresight.hatenablog.com

この深町とともに、来月ある高校で”道徳の授業”を実施しますので、当日の模様、生徒の感想はこの記事を更新して共有致します。

【授業を筆頭に学校生活の中で身につくもの】

国語については、福岡高校の深江先生のお考えをご紹介します。 「キャリア」と言うと職業や仕事といったイメージが強いけど、職業を決める上で、仕事を続けるうえで、生きていくうえで、生を全うするうえで、“支え・よりどころ・指針”といった自分の軸になるようなもの育てたい。 特に国語の教科は教材自体から生き方を学べることも多いので、国語の先生として、流されずに生きるための生き方の軸を授業で育てたいとおっしゃっています。

【詳しくはこちら↓】

foresight.hatenablog.com

数学については、立命館宇治高校の酒井先生のお考えをご紹介します。 酒井先生は、「数学をやるからこそ抽象的なことが理解できます。数学は難しいと言われるので、そのおかげで人に教えると伝える力がつきます。やはり抽象的なことを人に伝える力は大切だと思います。さらに、わからないことに挑戦する力は数学でこそつくと考えています。 」と語られていて、数学を通して、数学だからこそできる、生きるうえで大切な力を育てる授業をしたいということで、いま試行錯誤されているようです。

【詳しくはこちら↓】

foresight.hatenablog.com

理科(化学)については、香椎高校の守谷先生のお考えをご紹介します。 守谷先生は、理科の授業(特に実験)を通して、成功することが良いのではなくて、失敗したときになぜそうなるのかを考えさせるのが、実は非常に重要だとおっしゃっていて、協同することや何故そうなるのかという思考、チャレンジ精神等を教えられています。また、理科という教科の面白さを伝えながら、それをやってみたいという生徒を増やしながら、進路指導もしていきたいとおっしゃっています。

【詳しくはこちら↓】

foresight.hatenablog.com

「教科と社会の接続」については、先日ある高校でのキャリアガイダンス、生徒の感想がヒントになるかと思いますので、ご紹介いたします。

foresight.hatenablog.com

もう1点、「PBL・アクティブラーニングを成立させるファシリテーション研修とは?」というテーマで研修会を行いました。授業をどう作るか、といった部分でご参考になれば幸いです。教科で育成したい資質や能力を生徒に身につけさせるには、「授業づくり」が大切だと考えています。 ※近日中に公開いたします。

1-2.社会変化によって変わるもの

こちらについては、城南高校で行なった進路講演会(テーマ:これからの世の中がどのようになっていくのか?/そのような社会を生き抜くために何が必要か?)が参考になるかと思いますので、ご紹介します。これからの社会、ITとの付き合いが鍵となりそうです。

城南高校進路講演会

foresight.hatenablog.com

また、この講演会の中で現在紹介している21世紀型スキルの中の「クリティカルシンキング」を国語の授業で身につけさせている、山門高校(当時)平川先生の取り組みをご紹介します。国語で身につけたい本来の資質や能力に加えてこのような工夫をされている先生がいらっしゃいます。

foresight.hatenablog.com

21世紀型スキルについては、 故三宅なほみ先生(東京大学)が関わられた「21世紀型スキル:学びと評価の新たなかたち」に詳しく紹介されています。

honto.jp

また、社会変化によって変わるものをテーマにするのであれば、“これからの日本はどうなるのか?”という考えも必要かと思います。 まだこのテーマで講演会を開催したことはないのですが、書籍では竹中平蔵さんと、リディラバの安部くんの対談が面白いです。 「日本につけるクスリ」

www.d21.co.jp

本の内容は、「税金」「格差」「政治」「地方自治」「メディア」「教育」をテーマに、それぞれのそもそも論から、現在の課題とクスリ(解決策)が綴られています。

1-3.職業や会社によって変わるもの

これは、正直企業や団体の文化によるものが大きいと思います。 一社一社取材して行くことがいいと思いますので、追ってご紹介いたします。

学業と社会をどう接続、形成させるのか。(手段)

「学業と社会をどう接続、形成させていくのか」 手段の話に入っていきたいと思います。 今のところ、以下の6つと先に述べた授業が浮かびました。部活動や生徒指導、特別活動等も大きく影響を受けると思いますが、追って整理していきます。

2-1.キャリア・カウンセリング

「キャリア・カウンセリング」の第一人者、追手門学院大学 三川 俊樹先生によると、 キャリア教育のカリキュラムは、一斉指導が中心である。 だけど、児童生徒には個人差があり、それをどういう風に補っていくかが大切であると語られています。 この個別対応のキャリア教育を、「キャリア・カウンセリング」と言っているだけのことなのですが、今はこの「キャリア・カウンセリング」についていろんな受け止められ方をしている。 「キャリア・カウンセリング」について、怪しい話、危ない話が一杯あり、誤解を受けっぱなしの「キャリア・カウンセリング」なので、注意していただきたいと語られています。 僕たちは、三川先生の講座を受けるまで「キャリアガイダンス」に偏り過ぎていたので、これを機に「キャリア・カウンセリング」の要素をプログラムにどう入れていくのかを検討したいと思います。

追手門学院大学 三川 俊樹先生の「キャリア・カウンセリング入門講座」の模様は、近日ご紹介いたします。

2-2.キャリア・ガイダンス

私はキャリアガイダンスのファーストステップで大切なのは、自分の学習観、職業観、人生観を言語化することだと昨年気付きました。

明治大学齊藤 孝さんも著書のなかで、”「自分の考え」を明らかにする機会が確実に増えている。企業の採用をなど見ても「自分の考え」を持っている人が求められる傾向にある。また、「自分の考え」の有無または深浅によって、人間関係には大きな差がつく。「自分の考え」を持つとは、従来の学校教育ではなかなか教えられなかった新しい「学力」と言える”とおっしゃっています。

僕自身の実体験としても、「生きること・働くこと・学ぶこと」自分のことだけどなかなか自分ごとにできず、受身な生徒をよく見受けます。 それぞれに対する自分の考えを言語化することで、意識が芽生えたり、アンテナが立ったりするケースを見てきています。

京都大学溝上 慎一先生は、「他者の森を駆け抜けて自己になる」とおっしゃっていて、理想的な自己実現には、他者との関わりやコミュニケーションが重要だということだと僕は理解しています。

そして、齋藤孝さんがおっしゃるように、「自分の考え」の深浅によって、人生は大きく変わるとおもいます。

良質なコミュニケーション(質の高い対話)を取りながら、他者の森を駆け抜けられるよう、「生きること・働くこと・学ぶこと」に対する「自分の考え」を明確にしておくこと、つまり、自分の学習観、職業観、人生観を言語化することが、キャリアガイダンスのファーストステップだと思います。

【学習観を言語化するプログラム】

学習観を言語化するプログラムは、先ほど「教科と社会の接続」のところでご紹介したある高校での進路講演会が参考になると思います。

foresight.hatenablog.com

【職業観を言語化するプログラム】

職業観を言語化するプログラムは、久留米商業高校で行なった仕事人キャリアガイダンスが参考になると思います。

志を持った仕事人が語る!@久留米商業高校

foresight.hatenablog.com

ここでは、志が高い職業人が生徒に、自分の職業観をたっぷり語ります。生徒たちは、そのお手本となるを参考に、自分たちの職業観を言語化していきます。

【人生観・志を言語化するプログラム】

香椎高校1年生特進クラスにプロデュースした萩合宿が参考になると思います。 萩に行く理由は2つあります。 一つ目は、本物の志が今なおそこに継承されていること。現地の方々の言葉や建物、書物、街そのものからそのオーラを体感出来ます。 二つ目は、資料館が充実しているため、自分たちで答えの一つを見つけることが出来るからです。現地では、ある問いを立てるだけで、生徒たちは自分たちだけで答えを探し、発表します。

香椎高校萩合宿1日目

foresight.hatenablog.com

香椎高校萩合宿2日目

foresight.hatenablog.com

また、志教育については、今慎重に実践と研究を行っています。 随時、下記記事を更新していますので、興味ある方はご覧ください。

志を生み出す日本型のキャリア発達

foresight.hatenablog.com

キャリアガイダンスは、福岡大学田村先生のゼミ(書くP)、NPO法人カタリバ、北九州キャリア教育研究会等、たくさんの優良団体が介入していると思います。 先生方の取り組みだけでなく、学校外の団体の取り組みもご紹介していきたいと思います。

2-3.インターンシップ

インターンシップについては、先日九州大学教育学部 主幹教授 吉本 圭一先生(日本インターンシップ学会 会長)にインタビューを行ないました。記事は後日公開いたしますが、取り急ぎ要点をお伝えします。

“「昭和25年に日本で発行された、エドワード・G・オルゼン著「学校と地域社会 」の中に、「島の中の学校」と「生活の本土」を結ぶ10の架け橋”が紹介されていて、ちゃんと架け橋をやらないと、学校は「ひょっこりひょうたん島」みたいなもんで、どんどん「生活の本土」から逃げていく。何故逃げていくかというと、デューイの理論によると、学校にいると法則の知識を学び、法則の知識が好きになる。そして、文脈の知識が分からなくなり、文脈の知識への関心が薄まって来てしまう。“ (参考までに、その10の架け橋とは、当時「文書資料」「聴視覚補助具」「校外専門家」「面接」「現場見学」「調査」「長期調査旅行」「学校キャンプ」「奉仕協力活動」「職業体験」と訳されています)

キャリア教育やインターンシップについて、吉本先生はこのようにおっしゃって、正にキャリア教育の目的そのものじゃないかと感じました。また、その10の架け橋の中の一つに“職業体験”があり、インターンシップもキャリア教育の手段だと言えます。

吉本先生によると、インターンシップは九州インターンシップ推進協議会や鳳雛塾のように、事前事後の指導に企業人が介入することが重要であると言われています。 具体的には、インターンシップに行く前に、仕事を深いところで見たり経験したりしている企業人が、経済の動きや働く上でのポイント、目標設定を事前に手伝う。 終了後は、ふりかえりや改善意見を出していくことで、より実践に近い形でインターンシップが可能となるとおっしゃっていました。 【九州インターンシップ推進協議会】(http://www.q-internship.com

【鳳雛塾】(http://www.housuu.jp/main/

僕も、大学3年生の時に東京の人材コンサル会社でインターンシップを1か月しました。 そこで、会社とはどのようなものかを体験し、自分には何があって、何がないのか、学ぶ目的は?等が整理できました。 このような体験を、高校生の進路選択前にしておくにはどうすればいいのか、一つの鍵となるように思います。 大切なのは、やりっ放しにならないこと。その事前事後の指導例も、この記事を更新しながらお伝えしていければと思います。

2-4. Problem Based Learning(PBL)

北九州市立大学の取り組みをご紹介します。

foresight.hatenablog.com

眞鍋先生がおっしゃるように、自然に社会と接続することがキャリア発達を促す要因となるように思います。

また、ある学会のラウンドテーブルで学んだ「PBLを成立させる教師の実践知とは何か?」についての記事をお送り致します。

foresight.hatenablog.com

このラウンドテーブルでは、以下の3つのことを感想として持ちました。

一つ目は、最初の高校の先生が報告されたPBLにおける生徒の活動の段階が、僕が見てきた“デキる新社会人の成長段階”によく似ているという点です。

二つ目は、二番目のある県の教育委員会の方が報告された、この発表におけるテーマ「プロジェクト学習(PBL)を成立させる教師の実践知とは何か?」の結論が、僕が見てきた“デキる上司の部下への関わり方”によく似ているという点です。つまり、社会と教室の垣根がなくなってきたという実感を持ったということです。

三つ目は、PBL学習は進路指導の一つの要素である人生の予習)になるが、そこで得た知識や経験をより広め、深めるワークショップがないと、短絡的な進路選択になってしまう恐れがあるという点です。逆に言うと、そのようなワークショップが作ることにより、より深い進路学習が可能となるという、明るい未来が見えました。 今、学校の先生方は、これまで通りの「先生」という役割に加えて、このように「会社でいう上司」というようなスキルまで求められているのだと感じました。学校の先生になろうとしている学生のみなさん、がんばって実践の勉強もするといいと思います。

2-5. 修学旅行

修学旅行は絶好のキャリア教育の機会であると思います。 今まで聞いた修学旅行で面白かったのは、昨年度の福岡県立香椎高校の「東京現地集合」です。 今年度は、生徒自身が、東京でのツアー内容を企画しているようです。 これらの模様は、香椎高校へ取材に行った後、詳しくご紹介します。

もう一つ、修学旅行と言えば、やはり一般社団法人リディラバです。 先に代表安部くんの著書をご紹介しましたが、この団体では修学旅行で社会問題の現場に生徒を送り込み、当事者意識を芽生えさせるプログラムを提供している、とってもステキな団体です。

ridilover.jp

2-6. 小論文指導

先ほど紹介したリディラバの安部くんは、社会問題スタディツアーや修学旅行で「当事者意識」を育もうとしていますが、それを「小論文指導」で実現している強者がいます。 現在宇美商業高校に勤務されている関先生です。こちらにつきましては、記事が完成次第更新させていただきます。

長々、キャリア教育で育成すべきこと、手法の事例をご紹介しました。 でも結局、9月に行なったキャリア教育有識者会議の結論でもありましたし、渡辺三枝子先生もおっしゃっていましたが、「キャリア教育という言葉がなくなること」が一番の理想だと思います。 上記に上げたようなことが、ごくごく当たりまえに行なわれている状態ということだと思います。 そういった社会になるよう、僕もキャリア教育の実践家として、精進していきます。

【9月に行なったキャリア教育有識者会議】

foresight.hatenablog.com

今後、マインドセットやスキルアップの事例記事も増やしていき、最終的にはキャリア教育のコミュニティサイトを立ち上げようと思います。進路指導、キャリア教育に関わられる先生方の参考になれば幸いです。 また、キャリア教育にまつわる記事の提供にご協力いただける方、ご連絡いただけると幸いです。

平成29年1月1日 Foresight Act Co., Ltd 西田 将浩

(メールアドレス:act@foresight.bz)

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(大学4年生の時に書いた職業計画です。今は自分で学校を経営しようと目論んでいます。)