FORESIGHT.COM

Foresight Group Official Blog


プロジェクト学習(PBL)について

キャリア教育推進事業部、部長の西田です。

先日、ある学会のラウンドテーブルに参加しました。

テーマは「プロジェクト学習(PBL)を成立させる教師の実践知とは何か?」。 提案者はPBLを実践する高校の先生、ある県の教育委員会の方、大学の先生でした。


これは大変参考になるラウンドテーブルでした。

PBLはもちろん、アクティブラーニング実践に参考になる点が多いのではないかと思いますので、参考までにシェアさせていただきます。


発表1

最初はPBLを実践する高校の先生の発表と、その学校の校長先生からの報告でした。

テーマである「PBL学習を成功させる教師の実践知とは何か」の前に、校長先生が、必要な学校の体制についてお話をされました。

学校組織にはこのような特質があります。
・学校は基本的に変革することが苦手
・不易は得意であるが、流行を先取りするのが苦手
・得意分野以外で生徒とかかわる時間を作るのが苦手

そのような学校を変革するために、
・教員や生徒が興味沸く取り組みを効果的に作り出す
・地域や企業などの協力体制を確立する
・効果的な報道と適切な評価を行う
・校長と教頭及び教員、教頭と教員、校長と生徒が気軽に意見交換ができる
ことが必要であるというお話でした。

そして、PBLにおける生徒の活動の段階に話が移ります。

活動の第一段階は、身近に素晴らしい実践モデルがあり、“やってみたい(憧れ)”と思うことです。「自分にもやれそうだ」「やってみたい」と思うようなサポートが必要となります。

第二段階は、取り組みを始めて困難に直面して自分を見つめる(自己嫌悪)ことです。いろいろな壁(プレゼン力等)に直面し、出来なくて泣いたり、やめたくなったりするという段階です。

第三段階は、いろいろな世界に触れる(共通体験)ことです。海外研修や、大学生・社会人・地域の人々との交わりの中でたくさんの体験談を聞き、誰もがすんなりと一直線に成功するわけではないと気づくことが重要であるということでした。

第四段階は相談できる協働者を見つける(自己成長)こと

第五段階は様々な活動に主体的に取り組み、成果を出す(自信獲得)こと

そして第六段階は、自分を肯定的に捉え、さらに積極的なチャレンジを行うようになることです。

これを見たときに、僕は“新入社員が成長していく過程”そのものであると思いました。自分の実体験からもそう思います。

例えば、僕が新入社員だった頃、ある先輩に憧れました。その先輩の立ち振る舞い、顧客や他の従業員との信頼関係、どれを取っても自分が描いている社会人像を上回り、その先輩に追いつくことを目指しました。

ただ、従業員と衝突したり、数字が取れなかったり、うまくいかないことが多くありました。僕はその一つ一つを自分で経験し、自己啓発書等を読んでその穴を埋めていく作業を行いました。

数ヶ月が経ち、その先輩と同じレベルまで到達しかけたときに、自分のオリジナルに進化させようと、新たなチャレンジを行いました。

この成長段階モデルは、本人の意欲次第ではアルバイトでも適応されるものであると思っています。過去に何人もこのような成長を遂げたアルバイト生を見てきたからです。

また一方で、先輩への憧れももてず、「自分にもできそうだ」とも思えない生徒への指導体制が必要であると思います。経験上、PBLに参加するすべての高校生が「身近ですごい実践モデル」と出会えるとは思えません。それに対する工夫として、メンターである先生や社会人、大学生の見立てと、カウンセリングの資質が必要になってくると思いました。

さらに、これらの成長段階を、教科の授業の中で実現できるのではないかという仮説が立ちました。


発表2

次は、ある県の教育委員会の方のご発表です。
この県では、教育委員会の主導でPBLを進めており、2030年には全校にPBLを導入するとおっしゃっていました。

生徒に身につけてもらいたい資質・能力(コンピテンシー)として、以下の8つが提示されました。
①創造性とイノベーション:新たな価値を生み出すことができる人の知識に対する考え方
②地域・日本・世界:世の中の諸問題について理解し、取り組むべき課題を設定する力
③コラボレーション:目標を共有し、その達成に向けて他者と協働する力
④プロトタイピングとリファイン:自分の意見や考えを見える化し改善する力
⑤リフレクション:自らの成長のために、学びや体験を振り返り、次に生かす力
⑥自己管理能力:目標の達成に向けて自律的に行動する力
⑦レジリエンス:困難や失敗に直面しても諦めず、前に進む力
⑧オープンマインド:多様な価値観があることを理解し、より良い人間関係を構築する力

PBLの時間には、生徒に「県と世界の未来を変えるには?」という問いを出したそうです。しかし、やはり高校生には難しく最初はうまく稼働しなかったようですが、「フレームワーク」を示したことで加速度的にプログラムが進んだとのことでした。

僕は、その問いに対する考えも、発表内容も、活動内容も生徒が決めるということに非常に興味を持ちました。

県と世界の未来を変えるために、生徒が出した答えは以下の4つです。
①子供と地域のつながりで愛される地元を目指す
②都会と田舎をつなぎ、若者が活躍するイベント開催
③いつでも帰ってこられる故郷を未来のために
④地元で活躍する人を表彰・取材し、地元の良さを発信

これらのPBLを通して、生徒たちは以下のように成長を実感しているようです。

「自分たちが新しい知識を作っていかなければならず、いつまでも人に答えを求めてばかりではいけないとわかりました。」

「自分の意見や思いを伝え、他者の意見もしっかり聞くよう心がけて活動しました。新たな挑戦には、他者との協力や助け合いが必要です。アドバイスに対しても、すぐに反発するのではなく、まずは受け止めることも大切だと分かりました。」

「後悔することが多い私だからこそ、“反省は必ず次に生かす”ことを常に意識していました。今回の活動では活動が進むほど後悔が減っていきました。良いリフレクションができていた証拠だと思います。」

この学会発表におけるテーマ「プロジェクト学習(PBL)を成立させる教師の実践知とは何か?」に対するこの発表者の結論は、
①PBLをデザインしてあげること
②考えを深めるための質問をしてあげること
③情報提供をすること
④生徒の考えを引き出すこと
でした。まさに僕が見てきた“デキる上司のあり方”そのものでした。

この発表については納得させられることが多く、自分もワークショップを組み立てることが多いので、参考にしたい点も多かったです。 特に①のPBLのデザインについて、ここでいかにストーリー性を持たせるかがプロデューサーの醍醐味だと感じ、研鑽したいと思いました。


発表3

最後に大学の先生から、PBLを成功させるためには実践知を拡張していかなければならないというお話がありました。

PBLは答えが一つに決まっていないプロジェクトなので、これまでの授業よりも多様性・複雑性が増大するだけでなく、未知のものであるため、先生自身も学び続けなければいけません。またPBLでは文脈そのものが更新され続けます。

これからの知識社会において、教師は
・深い理解を伴う認知的な学びを促進すること
・自分が教わってない方法で教えることを学ぶこと
・専門職としての持続的な学び合いに全力を傾けること
・実践課程で信頼を育むこと
に熟達することが必要であると言われていました。

キャリア教育を追求する僕が一番関心をもったのは、PBLでの課題設定と生徒たちのアイデンティティ形成は切り離せないという点です。分かりやすく言うと、「PBLを経験することによって進路が定まる生徒もいる」ということだと思います。

先に発表されたお二人のお話の中に、国際シンポジウムを主催した生徒が外国語学部で語学を学ぶという進路選択をした例、人との関わりが良かった(→人との関わりが好きということ?人と関わりたいということ?)ので「ホスピタリティ」を学びたいと思いスイスに行く選択をした例があり、実際にもそうなっていることがわかります。

PBLはキャリア教育との融合ができ、僕がずっと目指している自然体でのキャリア教育が可能となるのではないかと思いました。

ただし、国際シンポジウムをしたから「外国語学部」、人との関わりの中で「ホスピタリティ」を学ぶ、という進路選択は少し安易ではないかという懸念もあります。生徒たちがこの知識経験から視野を広げられるようなキャリア教育プログラムがあると、より深い進路選択、人生設計が可能となると思いました。


僕が感じたこと

いろいろと長く書きましたが、僕が感じたことはこの3つです。

1つ目は、高校の先生が報告されたPBLにおける生徒の活動の段階が、僕が見てきた“デキる新社会人の成長段階”によく似ているということ。

2つ目は、ある県の教育委員会の方が報告された、この発表におけるテーマ「プロジェクト学習(PBL)を成立させる教師の実践知とは何か?」に対する結論が、僕が見てきた“デキる上司の部下への関わり方”によく似ているということ。

これらはつまり、社会と教室の垣根がなくなってきたという実感を持ったということです。

そして3つ目は、PBL学習は進路指導の一つの要素である人生の予習(福岡県教育センター和田先生のお考え)にはなるけれど、そこで得た知識や経験をより広め、深めるワークショップがないと、短絡的な進路選択につながってしまう恐れがあるという点です。でも逆に言うと、そのようなワークショップを作ればより深い進路学習が可能となるということです。明るい未来が見えたような気持ちです。