香椎高校特進クラス、志合宿 in 萩 ~2日目~
志合宿、いよいよ2日目に突入です!
2日目のプログラム
<2日目:5月6日>
8:00 萩城下町でフィールドワーク~萩・日本における藩校明倫館の役割を探る~
10:00 グループワーク・発表
11:00 講話「萩・日本における藩校明倫館の役割とは」
12:00 昼食
13:00 グループワーク・発表「香椎高校に継承される志・役割とは」
14:00 スピーチ「あなたの志は?」
15:00 グループワーク・発表「1年1組の志は?」
16:00 吉田松陰誕生地 見学
藩校明倫館の、地域や日本における役割・志とは?
2日目は、明倫小学校と萩の城下町でのフィールドワークから始まりました。生徒たちはグループに分かれ、明倫館小学校や高杉晋作誕生地、木戸孝允旧宅等に行き、藩校の役割・志が何だったのかを探りました。
天気予報で雨だと言っていたので時間を早めて出発したのですが、やはり雨に降られてしまいました。しかも風も吹き…。 しかしそんなことは関係なく、生徒のみなさんは生き生きと積極的に活動してくれました。
そして萩セミナーハウスに戻り、藩校明倫館の役割や志についてグループごとに発表をしてもらいました。前日のワークと同じように、各自の意見をふせんに書き出してから模造紙にまとめます。
生徒が情報収集し導き出した明倫館の役割や志は、”長州藩を再建すること””日本を担う新たな人材を育てること””人として守るべき道を教えること”などでした。
各グループの発表後、井関さんから、1日目も含め今まで出てきたことを整理するかたちでフィードバックをいただきました。
井関さんはこのようなまとめをしてくださいました。
「明倫館も松下村塾も、知識・スキルの前に人間としてどうあるべきかを教えました。また教育の結果優れた人材が育ち、その先に明治という時代が訪れたのです。違うのは、明倫館はもともと長州藩のために作られたいわゆる公立の学校で、武士の身分しか通えなかった一方、松下村塾は身分に関係なく誰でも通える私塾だったということです。」
香椎高校の役割・志とは?
明倫館や松下村塾という教育機関のお手本に直に触れ、いよいよ香椎高校の志について考えました。
前日に使用した枠組みを使って考えをまとめていきます。
まず世の中の社会課題をふせんに書き出しました。
PM2.5、飲酒運転、待機児童、ネット問題、18歳選挙権、貧困、歩きスマホ、いじめなどの意見が挙がりました。
次に香椎高校の特性を書き出しながら、発表資料を作成しました。
生徒の考える香椎高校の特性は、”地域活動にさかんに参加する””福岡県公立唯一の服飾デザイン科””嵐に耐ゆる心意気””迫力ある校歌の歌い方””卒業生の香椎愛””倍率2.1倍以上””アクティブラーニングなど、意見を共有して知識を身につける”などでした。
そして導き出した、生徒の考える香椎高校の志は以下の通りです。
将来、世のため人のため自分のためにできることを成し遂げる人を育成する。
これからの世の中には自ら考え、学び、行動することが求められるので、アクティブラーニングや観点別評価を取り入れている香椎高校が、主体性・ 自主性のある人材を育成していく。
社会に出て、活躍出来るような人材をつくり、香椎の伝統を守りながらも、地域との信頼を深める役割がある。
皆が笑顔でやるキッズで明るいところを生かし、世の中の笑顔あふれるように香椎高校から発信していく!
校歌から、世界がどれだけ荒れていて、苦しい状況でも、それを切り開くことのできる人材に育ってほしいということが分かる。また、教育目標から、自らのリーダーシップをはかって世の中を動かしていけるような生徒を育成することが志だといえる。
校訓や校歌、ホームページに記載されている校長先生方の想いから分析し、結論を出したグループもありました。
自分の学校が育てようとしている人物像、校歌や校訓についてじっくりと考える機会はそうないと思います。高校生活が始まったばかりのこの時期に、このような活動ができたことがとてもよかったと思います。
先生方の考える香椎高校の志
各班の発表の後、引率をしてくださったお二人の先生方からフィードバックをいただきました。
また、この記事では後日お尋ねした”校長先生の考える香椎高校の志”も紹介します。
伊原先生
松陰神社の宝物殿を見学して、松下村塾では一方的に教えるのではなく対話や意見交換が重視されていることを知りました。香椎高校で大切にされているアクティブラーニングの原点を見つけ感動しました。香椎高校では生徒が主体です。校長先生もこの高校に入った以上みんなを大人扱いすると言いますね。できていない生徒には徹底的に指導をし、できている生徒においては自由度を拡大します。この香椎高校は夢や志を実現できる高校です。学校に戻ってからもぜひいろんなことに取り組んでほしいです。
市瀬先生
キーワードは「大阪のおばちゃん」と「perspectives」です。1年生のみなさんはまだできていないですが、香椎高校の生徒の笑顔は素晴らしいです。笑顔で挨拶をされると暗い気持ちも吹っ飛びます。地域でも周りを笑顔にしてほしいです。また香椎高校の生徒は、私が廊下で荷物を持って歩いていると「持ちますよ」と声を掛けてくれます。そういう大阪のおばちゃんのようなおせっかい、周りへの心配りが香椎高校のアイデンティティであってほしいです。次にperspectivesというのは、いろんな視点で考えるということです。松陰先生は行動しなければ思っていないことと同じと言っていました。1つの方法でできなかったとしてもあきらめないでください。
田中校長先生
本校には、他校ではなかなか見当たらない学校文化があります。それは、困っている人がそこにいたら助けようとする、悲しみに涙している人がいたら笑顔にしようとする、心が寂しい人の心を温めようとする、そんな奉仕の心に富んだ人間性を育む風土です。これは現在の生徒に限ってではなく、私が知る限り、昔からずっとそうなのです。当たり前のようなことですが、この他者を大切に思う心というものは、学校中に「信頼」というものがあふれていて初めて育むことができる真心であります。また、これは非凡に通じる洗練された平凡である、私はそうとらえています。
そんな香椎高校だからこそ、本校の教育活動は生徒が主役です。自ら考え、情報を収集・選択し、主体的に活動をします。そうすることで、生徒たちは、鍛えられ、褒められ、そして信用されることの責任と喜びを理解してくれます。昨年度の卒業生は、そのことを理解し、見事なほどに柔軟に対応してくれました。在校生もそのことを模範として、早くも引き継いで、次の世代へとつなぐ一筋の糸を紡いでくれています。
今、社会で大きな話題となっているのは、人工知能の驚異的な進化についてです。この先10年で、今までの優等生は人工知能にとって代わられると言われています。これからは、人をドキドキさせたりワクワクさせたり、感動させることができる人間が必要なのです。香椎生の時代が来たのです。
香椎高校の伝統を受け継ぎながら3年間を過ごし、社会へ出ていく生徒たちには、用意された質問に対してただ答えを導き出すだけでなく、問いさえも自分自身で見つけ出してほしい。用意された問いは、まねと暗記で解を出すことができます。しかしこれからの世の中で真に求められる力は、その暗記した知識や学んだ理論を使いこなす力なのです。
香椎高校の生徒には、本校で高められる“他者を信頼する真心”と“他者から信用されることの責任と喜び”という感性をもって、問いも解も自分で見つけ、新たな正しい日本のかたちを創造し世界と対等に渡り合ってほしいと心から願っています。
あなたの志は?
次に、一人一人が自分自身の志を考え発表しました。
これは後日、香椎高校の黒門前で撮影したものですが、このように紙に書いて、前に立って発表してもらいました。
生徒の書いた志をいくつか紹介します。
どんなに辛くてもやるときは全力
自分のことよりも相手のことを一番に考えて行動し、周りからの信頼を受けられるような人になる
何か嫌になることや失敗することがあっても、前向きに考え、その場その時にできることからする!
困っている人がいたら迷わず手を差し出すことのできる人になる
司書になるためにいろいろな人と意見交換などをして、たくさん本を読んでもらえるような工夫を考えられるようにする!
看護師になるために毎日笑顔ですごし、包容力を身につける!
高校生活で、人生で役立ちそうなことを見つけて、身に付けられるように頑張ること
お手本となる偉人の志に触れ、生徒たちの志もまた一つ太く、強くなったようです。
香椎高校1年1組市瀬クラスの志は?
そしてこの合宿の締めくくりに考えたことは、クラスの志です。
実はこの活動、担任の市瀬先生には当日まで内緒にしていました。狙っていたとおり、このプログラムを市瀬先生が喜んでくださったのでよかったです。
各グループから発表された、特進クラスの志です。
他のクラスを引っ張る学力、向上心を身につけ、一人一人が目標に挑戦できるようにする。
みんなで協力し合って、1年1組何でもナンバー1!
香椎高校1年1組としての自覚を持った行動をする。
明るく元気で笑顔の絶えないクラス。お互いがどんなに辛くても励まし合う!
平均偏差値60にする。
自ら積極的に行動を起こす!
このメンバーで卒業する!
この案を結合して、3年間のクラスの志を立てて、一丸となって頑張ってほしいものです。
志合宿、その後
この合宿の効果を検証するため、実施前と実施後に志尺度(2014, 福泉, 山﨑, 西田)とコミュニケーション効力感尺度(2010, 宮原)、社会形成意識尺度(2011, 宮原)のアンケートをとりました。
志尺度というのは、志の立つ素地がどれくらいできているかを測定するものです。
志が立つ要因となるものは以下の6つです。
・意思決定…自分がやるんだという心
・当事者意識…社会課題や人が困っていることを自分事にする心
・自己肯定感…自分に自信を持ち自分自身を認める心
・積極的行動意欲…積極的に行動しようと努める心
・将来期待…自らの将来を期待する心
・他者支援…社会や他者のために何かしたいと思う心
コミュニケーション効力感尺度というのは、対人関係への自信を測定するものです。
これは具体的に以下のような3つの要素を含んでいます。
・親和性…多くの人と付き合うことや人付き合いに対して抵抗がないこと
・積極性…対人関係を積極的に深められると感じること
・高社交性…印象の悪い相手とも関係をつくれそうに感じること
そして社会形成意識尺度は、働くことへの意識を測定するものです。
こちらにも3つの要素が含まれます。
・貢献性…他者のために何かをすることに喜びを感じること
・責任感…ものごとを最後あきらめずやり遂げることに喜びを感じること
・生産的意識…消費者でない生産者の視点や主体的な課題解決意欲を持っていること
合宿の前と後の数値を比較した結果をお知らせします。
それぞれについてこのような結果になりました。
「平均」というのは、他の高校生の平均の数値です。
どの数値も、合宿前に高校で取得したものより、合宿最終日に萩で取得したときの数字の方が高くなっています。
つまり、非常に効果的なプログラムだったと言えます。
これから学会で発表したり高校の先生方と直接議論させていただいたりしながら、たくさんの方々にご意見をいただき、このプログラムの効果検証を行なっていきますが、まずは僕なりの見解を記します。
これらの数値が高まった要因はいくつかあると思いますが、僕は3つの大きな要因があると思います。
1つ目は、先生や講師の力を借りずに、生徒が自分たちの力で結論を出したことです。プログラムのほとんどは、生徒自身が博物館や資料館から問いに対する答えを探し出しました。先生たちの力を借りずに“自分たちの力で”結論を出した事が一番の大きな要因だと思います。
2つ目は、本物の志に触れた事だと思います。吉田松陰先生の志は、今なお、萩の街で生きています。本物と触れ合った事で感化されたものが大きかったんだと思います。また、基調講演をしてくださった萩ふるさと大使の井関さんのお話からも吉田松陰先生の志を感じ、心が揺れたのでしょう。
萩の街は趣があり、江戸時代、明治時代にタイムスリップしたような感覚になります。いつもと違うこのような雰囲気の中で学べたことも大きかったんじゃないかと思います。
そして3つ目は、香椎高校の子たちがもともと素直であることです。萩が持つ力もあるかと思いますが、それぞれの数値がもとから平均より高いものが多いし、2日間でこれだけ意識が変わるのは、彼らがとても純粋な心をもっていることが要因の一つだと思います。