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6月27日(月)小倉商業高校で職員研修をしました。

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6月27日(月)福岡県立小倉商業高等学校で、私、西田が志教育に関する職員研修を実施しました。

テーマは、「志を生み出す日本型のキャリア発達」です。

高校では様々なテーマで職員研修が実施されていますが、今回、小倉商業高校から「志教育」について、職員に話をしてほしいという依頼がありました。

私が高校の先生方に話をすることは「釈迦に説法」という感じはありましたが、キャリア教育や志に対する私の考えやこれまでの取り組みを先生方に聞いていただきたいと強く思い、引き受けることにしました。



小倉商業高校の取り組み

小倉商業高校は、来年、創立100年を迎えるにあたり、これからの時代の変化に対応するため、よき伝統は継承しつつも、新しいことに取り組んでいこうとされています。

現校長である岩本康明校長先生の強いリーダーシップにより、全職員が一丸となって、さまざまな取り組みにチャレンジしておられると聞いています。

その取り組みのひとつに「幸之助塾」があります。

これは、堀教頭先生の発案でできたもので、個人的に勉強をしたいと考えている生徒に対し、放課後に学習の場を提供することで、生徒が自主的に学習する習慣を身につけることや将来に対する意識を高めていくことをねらいとしています。

「幸之助塾」というネーミングは、商売の神様といわれる松下幸之助氏の数々の業績や企業理念から多くのことを学び、将来の有能な社会人を育成したいという意味でつけられたそうです。

つまり、単に知識を増やすだけでなく、学んだことをもとに新しいものを創造したり、行動したりできる生徒、また視野を広げて自律できる生徒を育成しようという取り組みで、学校が意図的にこのような場を設定している例はほとんどないと私は思います。

このような先進的な取り組みをスタートされた小倉商業高校の職員研修に呼んでいただいたことは、非常にありがたいことであり、私のチャレンジ精神に火がつくことになりました。

キャリア教育とは何か?

まず、「キャリア教育とは何かと聞かれたらどう答えますか?」という質問に対しての答えを、先生お一人お一人に考えていただきました。

その後、3人程度のグループで感想を話し合い、いくつかのグループの方に話し合った内容について発表していただきました。

そのときに出た意見は

「生涯にわたって学び続けるために必要な基礎的知識・技能、それを活用する思考力・判断力・表現等の育成を行う教育」

「生徒が自らの将来のビジョンを明確に持つために必要な知識や意識を身に付けるための教育」

というものでした。

文部科学省は、キャリア教育を「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」と定義しています。

私は、キャリア教育とは「生きていくため、働いていくために必要な“心の発達・マインドセット”と“スキルの習得”」であると理解しています。

従来のキャリア教育は「進路指導」「職業教育」が中心でしたが、私はこれに「生き方教育」を加えたものがキャリア教育だと考えています。

志教育

ある先生と議論をする中で、キャリア教育に関する学会や勉強会で紹介されるのが海外の理論ばかりであるのを受け、このような疑問が浮かんできました。

「海外の理論は日本に合うのか?」

「日本はキャリア教育後進国なのか?」

「日本に昔からあるキャリア教育ってなんだろう?」

私たちなりに様々な方法で調べた結果、日本型のキャリア教育は存在しました。

それは、「志教育」です。

過去において、様々な時代に志を持った人物やその人の行為が残されています。しかし、私は幕末から明治維新にかけて活躍した人々の思いこそが、今の時代に求められている「志」だと思います。

ここに、私が志教育を追及する理由の一つがあります。

明治維新後、わずか数十年で日本を近代国家に成長させた理由の中核にあるものは、当時の偉人たちが持っていた「志」ではないでしょうか?

またこれは日本型のキャリア教育で育まれたものであると考えています。

私は、この「志」を基本とする日本型のキャリア教育がこれからの学校教育に必要であると思っています。

* * * * * * * *

ある高校の進路担当の主幹教諭が、「キャリア教育をするけど生徒のモチベーションが続かない」とおっしゃっていました。

これは、生徒の内発的なモチベーションである「志」が育っていないために、せっかく将来のことについて学んでも自分のこととして捉えることができず、モチベーションが下がってしまうのだと考えられます。

さらに皆さんご承知の通り、福岡の小川洋知事も施政方針の中で「豊かな人間性や志を持ち、たくましく生きる子ども・若者を育てる」とおっしゃっています。

やはり志が大事だということです。

このようなことから、私は現代の社会課題を解決するためには”平成維新志士”の発掘が必要だと考え、志教育を追及しています。

* * * * * * * *

しかし「そもそも志とは何だ」ということに関して、科学的かつ詳細な検討・分析を行った先行研究はほとんどありません。

私は所属する日本キャリア教育学界で志教育についての発表を3回しましたが、学会の方や国立教育政策研究所の方からは、間違いなく先行研究であるから頑張ってほしいとアドバイスをいただきました。

志とは何か?

さて、「志」とは具体的に何でしょうか?

広辞苑に載っている「志」という言葉の意味は、“心の向かうところ、心にめざすところ”となっています。

また坂本龍馬にとっての志は「自分こそが成し遂げなければならない使命」、吉田松陰にとっては「何にも惑わされないもの、自分の信じるもの、絶対に成し遂げるもの」、松下幸之助にとっては「自分に与えられた道」です。

これは彼らの残した言葉を分析し、導き出した考えです。

私が以前、筑後の高校で講話をしたときに生徒が考えた「志」の例もご紹介します。

生徒たちは
・自分の「何になりたい」「決意の道しるべ」
・自分のための意志表示
・具体的な目標、夢につながるもの、何かしら持ち続けるもの
・自分を正しい道へ軌道修正するための目標点
などを挙げていました。

高校生なりに「志」の持つ意味を感じている表現になっていると私は思います。

そして私にとっての志の意味は「世のため人のために尽くしたいというとどめることのできない衝動性・意志」です。

先生方は「志」の定義を生徒にどう説明されますか?

志が立つのはどんな心理状態のときか

私は「志」の心理状態、つまり「志」を生み出すために必要となる心理的要因について、今まで研究をしてきました。

今の段階で、私はその心理的要因を図のように考えています。

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willはしたいこと、canはできること、mustはしなければならないことです。

その中に「自分がやるのだ」という主体的な気持ちや、世のため人のために尽くしたいという気持ち、自分の周りで起こっていることに対する当事者意識が含まれています。



志教育の事例

次に、「志教育」を教育の中心に据えて実践されている事例をいくつかご紹介したいと思います。

才教学園小・中学校

才教学園は長野県松本市にある学校で、「世のため人のために尽くす高い志を育てる」という使命を掲げています。

このような教育理念は、理事長の強靭なリーダーシップもあって学校の中に浸透しています。

また保護者との理念共有もしっかりとされています。 教育方針に対する保護者の理解度がとても高く、説明会等の出席率が90%あるそうです。

才教学園は、学校行事への熱意など、志の土壌づくりがキャリア発達へつながると考えています。

運動会等の行事は児童・生徒たちが企画運営して、上級生が下級生のお世話をするそうです。 この同学年や異学年との交流を通して、子どもたちは自分の役割に気づいたりナナメの関係を築いたりします。

そして、毎日「先達に学ぶ」という活動を実施しています。志につながることわざや格言などについて児童・生徒たちが事前に調べたものを、朝ホームルームの時間に一人ずつ、みんなの前で発表をするそうです。

* * * * * * * *

才教学園は、この5つのプロセス
①感動を体験する
②自分発見
③夢を描く
④役割への気づき
⑤自立心・責任感
によって志が生まれると考えています。

また、志育成のキーワードは「才能」「役割」「目的」であり、その3つを支えるものが「倫理」「愛」「チャレンジ精神」であるという考えを持っています。

我が国で「志」を教育活動の中心に据えている学校はこの才教学園以外にないので、「幸之助塾」などの小倉商業高校のこれからの取組におおいに期待しています。

福岡県立香椎高校

香椎高校の1年生特進クラス40名が、1泊2日で萩に研修に行きました。

目的は特進クラスとしての自覚を生みリーダー育成をすること。

具体的な到達目標は、生徒一人一人が自分の志に対する考え(志の定義)を言語化すること、香椎高校の役割・志を言語化すること、今の自分の志を言語化すること、クラスの志を言語化することです。

特進クラスの1年生に目標と自覚を持ってもらいたいという高校の依頼を受け、明治維新の時に活躍した偉人を多数輩出した山口県の萩を訪問しました。

萩という地で吉田松陰の業績や松下村塾・藩校明倫館の歴史を学んだり、ふるさと大使の方の講話を聴いたりすることで、偉人たちが明治維新の中心になって活躍した理由を理解します。

そのうえで、自分たちが世のために何ができるのか?香椎高校の中で何ができるのか?自分は何がしたいのか?といったことを考え、言語化します。

特進クラスの生徒の言動が萩合宿の前と後では大きく変わったと、担任の先生から報告を受けています。

これは、幕末の偉人たちが学んだ地を訪問し自分の目や耳で確認したことが生徒一人一人の意識を向上させた、つまり志を生み出したと思われます。

一般社団法人リディラバ

リディラバは、東京大学の最年少講師である安部敏樹氏が立ち上げた団体で、若者や一般の方々に社会課題をもっと認識してもらうため、様々な研修旅行を企画しています。

具体的には学校向け修学旅行や法人向け研修旅行、一般消費者向けスタディーツアーを企画運営したり、Web等で社会問題の情報提供をしたりしています。

この団体は、若者に社会問題のことを理解してもらうためには、本人たちに「当事者意識」が必要だと訴えています。

当事者意識は、書物や先生の話から情報を得るだけでは形成されず、社会問題解決に向けて行動していくことにはならないそうです。

行動につながっていくためには、その問題が自分のことだと強く認識する必要があります。

つまり、生徒が自分の考えをもって社会問題等に向かって行動するためには、「当事者意識」は不可欠なものなのです。

福岡県高等学校保健会 福岡支部 施設見学会

福岡県高等学校保健会福岡支部の保健委員の施設見学会で、大木町にある「おおき循環センターくるるん」を訪問しました。

高校の保健委員の生徒は毎年、自分たちの健康問題に関するテーマを掲げ様々な施設を見学し、自らの資質の向上に努めています。

今回は、廃棄物の処理とエネルギーの再生産等の循環の実態を学びました。

午前中は施設の方からの説明を聞きながら施設を見学し、午後からは会場を移し、自分たちの考えを整理しまとめました。

実際に施設を見るとともに地域社会の取り組みを知ることで、環境問題の大きさと深刻さを学ぶことができました。

また生徒たちは、これまで以上に、この問題について討論し、個人や学校全体で取り組む必要性を感じていました。

このことからも、人が行動を起こすためには「当事者意識」が重要であることが明らかです。

志を持ち、自分の生き方を明確にするためには、そのことに対する「当事者意識」が基盤となっていると私は考えています。

福岡県立京都高校 ”京都グローバルリーダー育成プログラム”

現在、京都高校は文部科学省スーパーグローバルハイスクールの研修指定を受け、国内外の農業問題に挑むグローバルリーダーの育成をテーマに実践研究を続けています。

課題発見力、論理的・批判的思考力、プレゼンテーション力、実践力の育成を目標に、世界で活躍するグローバルリーダーとなるための自らの希望進路実現に向けた計画と、課題の発見と解決に向けた研修の在り方も研究しています。

これは、キャリア教育が求めている力であり、私が考えている「志」に通じるものでもあります。この研究の成果をおおいに期待しています。

志教育をどう展開していくか

事例をいくつかご紹介しましたが、次に私がどのように志教育を展開していこうと考えているのかをお話しします。

①アクティブラーニング型教科学習を広げる
国語や社会(地歴、公民)、英語、家庭科、道徳などの教科科目において、アクティブラーニング型授業を実施し、徳育を進めます。これによって志因子の発達(徳育)を促し、志の土壌を作ります。

②高校生の社会科見学
社会課題の現場に生徒を送り出し、「自分が何とかしなければならない」という生徒の当事者意識を発掘します。自分が解決すべき社会課題との出会いによって志が立つことが多いと考えています。社会科見学後に、関連する大学訪問・模擬講義をするのが効果的です。

③平成志士に学ぶ、生き方・あり方・働き方
高い志をもって生きている方の講演を聞いた後、「志士の話に感銘を受けたこと」「その志士の志が生まれた瞬間」「志を成し遂げたときの社会の姿」「志を成し遂げる上での障壁」等をテーマにワークショップを行います。

お手本となる考えとの出会いを提供し、人生観・職業観の醸成をねらいます。

④先達に学ぶ、生き方・あり方・働き方
生徒自身に偉人の言葉やことわざ等を調べさせ、朝読書等で発表してもらい、内容をクラスに掲示します。偉人の志や言葉は現代においても力を感じることができます。

⑤「めげない力」の育成
部活動や勉強合宿、山登りなど、現代の生徒にとっては辛い逆境を与えます。心身ともに粘り強さ、忍耐力、独立心、危機耐性を育みます。

船井総合研究所の松下和彦氏は、“志とはめげない力だ”と述べています。福井藩士であった橋本左内も『啓発録』の中で「志というものは書物を読んだことによって大いに悟るところがあるとか、先生や友人の教えによるとか、自身が困難や苦悩にぶつかったり、発奮して奮い立ったりして、そこから立ち上がるものである」と伝えています。

⑥志ワークショップ
まず、志とは何かについて生徒同士で議論をし、その後に「志尺度(福泉、西田、山崎2012)」を紹介します。

志尺度というのは、先ほどご紹介した”志が生まれる心理的要因”がどれくらい存在しているのかを測定するツールです。

心理的要因は、将来期待・積極的行動意欲・自己効力感・意志決定・他者支援・当事者意識の6つです。この中から自分が持っているものを出し、「その心理状態が生まれたタイミング」や「持っていない項目をどう伸ばしていくか」等をグループで共有します。

これによって生徒にとっての「志」が自分ごとになると考えます。

小倉商業高校でどのように「志教育」を行うか?

最後に、先生方がご自身の学校でどのように志教育を行うかについて討議していただきました。

その結果、このような意見が出てきました。

・教科指導の中で、志を持たせる授業をしたい

・内発的動機付けが重要で、生徒の心を揺さぶる教科指導・学校行事・部活動を展開していきたい

・過去の経験の積み重さなりを通して生きていく能力や資質を養う教育

・生徒が将来、自分の可能性・特技を発揮できるように、自分で考え、学習できるよう支援していくこと

・生徒が自らの将来ビジョンを明確に持つために必要な知識や意識を身に付けるための教育

・どのような人生を送っていくか、それぞれが人生の目的を持つために必要な情報などを提供し、自ら考える能力を育成する教育

・一人一人の社会的・職業的自立に向け、基盤となる目的を発見したり、課題を解決したりする力を付ける教育

・課題に向き合う力・解決する力をつける、生きていくために必要な教育

・将来の生き方を見つめ、そのためにどう学習・経験していくかを学ぶ

・将来の自分像を探し、自分自身の進むべき道を見つける、生き方教育

・職業観の形成、自分に何ができるかを考え、自身の人生設計をしていく

・生き方・あり方教育

・将来必要となる能力を育む教育

・生涯教育(どのように生活していくかを考えさせ、実行させること)生き方の教育

・生徒の進路実現のため、教師がどのようにアプローチするか

・進路指導を含めた各人が人生の中でそのようにキャリアを積んでいくか、を考えさせる教育

・生き方について考える力を付ける教育

・生徒の将来の生き方、あり方を考えさせる活動、単に卒業後の進路だけでなく、その先の進路まで見据えて自分の将来を考えさせる教育活動

・社会に出ても自分の力を生かしていける能力を付ける教育、社会的・職業的自立に向け必要な基盤となる能力

・自分の進路に向けていかに学生生活を送っていくべきか

・社会に出たときに必要となる、生きていくための力を育てる教育

・職業だけでなく、人生を設計する上で重要なもの、どのような人間になりたいか、そのための職業や人生観を生徒自身が考え構築・修正していくもの

・単に職業指導ではなく、広く人生を通してのあり方・生き方の教育

・将来の目標設定を考えさせる教育

・自分の特性を知り、伸長させ、人生設計できる力を養う教育

もっと深く掘り下げていきたかったのですが、残念ながら時間切れで十分な討議をすることができませんでした。今後、小倉商業高校の先生方が個人・教科・全体でこのテーマに取り組まれ、小倉商業独自の志教育を展開していっていただきたいと思います。

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最後に、岩本校長先生から、「人は志のある人や行為に影響を受ける。教師に志は必要である。今回の職員研修の内容を参考に、先生方の今後の実践に期待している。」というお言葉をいただきました。

この言葉は私がこれまで考えてきた高校生に対するキャリア教育が間違っていなかったことを示していただいたものと受け取っています。

微力ではありますが、今後も「志教育」について研鑽し、皆様にご紹介できるものを作り上げていきたいと考えています。